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トンパ文字で町興し 麗江

 中国雲南省麗江が世界遺産に登録されて、はや5年。
  1986年、はじめてこの町を訪ねたとき、食事のできるところが見つからなくて、ようやく探した国営食堂で、ご飯を注文したら、なかからゴキちゃんが出てきたことが、遠く懐かしい想い出になるほど、麗江は、ますます都会的になっています。

 2002年1月中旬、トンパ文字のふるさと、麗江をふたたび訪ねました。

 町を歩いていると、トンパ文字をいたるところで見かけることができます。最近できたファーストフード店の壁や、商店の看板、トンパ文字の聯が貼られた民家の門、などなど。そして、トンパ文字をみやげ物とする、ハンコ屋やTシャツを売るブティック。

 玉泉公園にある、東巴文化研究所の売店では、研究所お墨付きの、「本物のトンパ文字」製品を買うことができます。「本物のトンパ文字」とは、どういうことか?

 つまり、町で売られているトンパ文字製品の中には、トンパ文字の本を買ってきて、適当にアレンジして書いてあるのもあり(いや、ほとんどそうでしょうが)、それらの商品に対して、ある人たちは批判しています。「適当な文字を書いて商売にしている」と。

 研究所で売っているものは、研究者が実際にデザインしたものや、監修したものなので、ここの売店では、ことさら「本物」を強調しています。その、ブランド料という意味もあるのか、町で売っているTシャツが35元〜45元のところを、40元〜60元と、じゃっかん高めの値段。トンパ文字を彫ったハンコの場合も、町で30元〜50元のところを、50元〜80元と、こちらも高めの値段設定になっています。

 ただ、どうなんでしょうか。トンパ文字を「文字」とするならば、だれがどんなふうに使おうが勝手なわけだし、むしろ、文字の立場(そんなもんあるか?)としたら、使ってもらった方が嬉しいということでしょう。博物館や研究所で眠っているよりはましです。そもそも、トンパ文字は、ナシ族の宗教儀式のトンパ経典で使われた文字でした。だから、人の名前(しかも外国人の名前)を、トンパ文字で表すこと自体、もう本来の使われ方とは違っています。文字がどう発展(あるいは衰退)していくかは、だれにもわかりません。

 最近、日本では、トンパ文字が静かなブームとなっていて、このホームページへも、「トンパ(東巴)文字」の検索で訪れてくれる人が増えているようです。

 日本人は、トンパ文字がどこの文字で、だれが使っているのか、知らない人も多いようです。いや、私は、このことを非難しているのではないですよ。知らなくてもいいと思うんです。(知った方がいいのは、もちろんですが)

 逆に、誰でも「適当に」書いたり、解釈できるからこそ、おもしろい文字であるとも言えるわけです。日本人にうけているのは、むしろ、そういう文字だからでしょう。(私も、トンパ文字を創作して、このホームページで使っています)

 ところで、ユネスコは2002年2月、世界の約6000言語のうち、約3000の言語が消滅の危機にあると発表しました。ユネスコによると、とくに危機的な状況にあるのは、中国国内の少数言語や、フランス国内の14言語を含む欧州の約50の言語だそうです。

 日本では、動植物の絶滅には敏感で、すぐに保護運動などが起きますが、こういった言語を含む文化の消滅には、意外と鈍感なのではないでしょうか?

 文字がそれ自体の魅力によって、ひとり歩きを始めているということは、とりもなおさず、トンパ文字にとっては、消えてなくなる危機から救われることでもあります。トンパ文字が持つ力です。

 見ただけでわかる文字。まだ「文字」として完成されていないような、素朴な味わい。絵画的要素を残したところにこそ、トンパ文字の魅力があるのではないでしょうか。

 

 

 

 

 


ファーストフード店DICOSの壁

 

 

 

 


トンパ文字を彫るハンコ屋

 


東巴宮のトンパ舞

 


トンパ文字書道の実演

 

 さて、麗江の東巴宮(トンパ宮)では、毎晩8時から、麗江に伝わる民族芸能を観賞することができます。(チケットは35元)

 そのなかには、トンパ教の儀式で行われていた東巴舞や、ナシ族に伝わる古楽の演奏、口琴の演奏、民謡、瀘沽湖のモソ族の踊りなどがあります。そして、トンパ文字書道の実演を見ることができます。

 左下の写真がそれですが、トンパが、ひとつひとつ丁寧に、文字を書いていきます。最後に意味を教えてくれます。ただし、中国語。

 

 ところで、町でトンパ文字を探して撮影していると、何人かから声をかけられました。「古いトンパ経典をもっているんだけど、買わないか?」というのです。

 はっきりいって麗江には、古い経典はもう残っていません。すべて偽物です。新しく作ったものを、お茶に漬け、取り出し乾燥させ、またお茶につけるということをくり返し、最後には、いかにも古そうな骨董品の偽物をつくりあげます。偽骨董を作ることに関しては伝統がある国なので、つい、騙されそうになるくらいです。誤解を怖れずに言えば、この偽骨董は、「すばらしい」の一言です。

 見せてもらったもは、紙は薄茶色にくすみ、周辺がぼろぼろになっていて、いかにも200年は経っているようなものでした。「麗江には、古いのはもう残ってないでしょう?」と私が言うと「これは、俺がずっと隠してあった本物だ」と男はいうのです。

 ちなみに値段を聞いてみると、最初2000元と言われました。その時点で、嘘だとわかるわけですが。あまりにも、安いからです。もし、かりに見た目通 りの古いものだったら、2000元でなんか買うことはできません。値段はつかないのではないでしょうか。2日、3日たったら、それが、400元までさがりました。

 最初から、偽物として、つまりみやげ物として買うつもりであれば、400元払っても安いのかもしれません。だから、そういう男が現れたら、「私は本物ではなく、偽物が欲しい」と言ってみたらどうでしょうか? そしたら、もっと、値段が下がるはずです。

 いや、実は、そうならないのが、中国なのですが。大理のぺ−族が売り付ける偽物銀貨のことは、別 なページで書いていますが、「俺は本物じゃなくて、偽物が欲しいんだ」といったら、ペー族の彼女、あまりにもあっさりと「これは、実は、あなただけに教えるけど、偽物なの」と白状しました。「だったら、もっと安くしてよ」と頼むと、「これは偽物は偽物でも、簡単に手に入るものではなくて、私しか持っていないものなのよ。だから値段は同じなの」と言ったのでした。 中国人の商売人、おそるべし。甘くはありません。

 ちなみに、この偽物骨董を一番いい値段で買ってくれるのが日本人ツアー客だそうです。いやいや、これを「骨董」としてではなく、「みやげ」として買うのだったら「偽物」ではなくて、「本物」になるわけですが。

 シルクロードの起点、中国西安にある兵馬俑博物館でも「兵馬陶俑」が売られてますが、これを本物だと思って買っている観光客はいないでしょう。それと同じ理屈です。


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